【医師が解説】「肉アレルギー」とは?:原因から診断、安心して食べるための完全ガイド

ここでは、肉アレルギーの基本的な知識を紹介しながら、発症後に安心して食べられる食事について、詳しく解説していきます。
肉アレルギーとは ~症状と発生状況について~
肉アレルギーとは、牛肉、豚肉、鶏肉などの肉類を食べた際に、吐き気、腹痛、喉のかゆみ、発疹などのアレルギー反応が起こることを指します。
肉アレルギーは食物アレルギーの中ではまれであり、実は原因となる食品別の頻度でも10位以内に入りません。消費者庁「令和6年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書」によると、肉アレルギーは牛肉、豚肉、鶏肉でそれぞれ3例ずつ報告されています。これは全体の症例のうち、それぞれ0.05%程度で、たいへんまれなアレルギーであることが示されます。
ただし、まれなアレルギーであることや、後述するα-Gal症候群のように食べてすぐ症状が出現しない場合もあるため、見逃されている例も少なくないと考えられます。また肉アレルギーであっても、すべての肉類に対してアレルギー反応を示す患者さんはまれで、多くの場合は特定の種類の肉に限って症状が現れます。

肉アレルギーの発生原因 ~ダニや動物との接触に要注意~
肉アレルギーは、一般的にダニや特定の動物との接触を通して人間の体内に抗体が生まれ、肉を食べることで発生する症状です。
肉アレルギーの中でも、特に注目されているのがα-Gal症候群です。これは、マダニに噛まれたことが引き金となり発症します。マダニの唾液にはα-Galという物質(糖鎖)が含まれています。マダニに噛まれるとα-Galが体内に侵入し、これにより、体内の免疫系がα-Galを異物と認識し、アレルギーの原因である抗体(IgE抗体)を産生します。
その後肉を食べると、肉に含まれるα-Galに抗体が反応しアレルギー症状を引き起こします。この症状は、食事から数時間後に症状を起こすとされています。
またα-Galは哺乳動物に広く存在します。そのため牛肉、豚肉だけでなく、ヒツジ、ヤギ、シカ、イヌ、ネコなども発症リスクがあります。一方で、鶏肉にはα-Galが含まれていないため、α-Gal症候群の原因にならないと考えられています。
ポークキャット症候群とよばれる別の肉アレルギーもあります。
これは猫アレルギーを持つ人が、豚肉の血中タンパク質(血清アルブミン)に交差反応を起こして症状を呈するものです。猫の血清アルブミン)と豚のアルブミンの構造が似ているため、IgE抗体が両者を認識してしまいます。この症状は豚肉摂取後、通常1時間以内に出現します。ネコアレルギーのある人のうち、およそ1〜3%がこの症候群を発症するとされています。
バードエッグ症候群も、ポークキャット症候群と同様の機序によるアレルギーです。これは、セキセイインコ、カナリア、オウムなどの鳥を飼育している方に起こりやすいアレルギーです。鳥の羽毛や糞などに含まれるアレルゲンに長年触れることで感作が成立し、卵や鶏肉のアレルギーが発症するとされています。
ポークキャット症候群やバードエッグ症候群のように、猫や鳥のアレルゲンに触れることで、構造が似た肉のアレルゲンに反応してしまうことを「交差反応」といい、肉アレルギーの方の中にはこのような交差反応によって症状を呈する方も少なくありません。

肉アレルギーの対象となる肉の種類 ~肉だけでなく肉エキスにも注意が必要
肉アレルギーは、牛肉、豚肉、鶏肉が頻度として高いですが、それ以外にも羊肉、クジラ、いのしし、鹿、馬、あひる、ターキーなど、どの種類の肉でも起こり得ます。現在、血液検査によるアレルゲンの測定が可能なのは、牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉に限られており、その他の肉については症状や経口負荷試験などから診断をする必要があります。
また、肉は直接食べる以外にも、ブイヨン、肉エキス、だしなど見えにくい形でお菓子や調味料などに入っており、さまざまな料理に使用されていることもあります。(ただし、肉アレルギーでもこれらの微量な成分には反応せずに問題なく食べられる方も多いとされています。)どのような食品が食べられるかどうかは自己判断せず、必ず医師とよく相談しながら確認しましょう。
なお、牛肉、豚肉、鶏肉ともに、加工食品の表示推奨項目に含まれています。ただし表示は義務でないため、すべての製品に記載があるわけではありません。肉アレルギーの場合は原材料表示をしっかりと確認することがやはり大切です。
肉アレルギーの症状とタイミング ~実は見逃しやすい症状も~
肉アレルギーの症状は、肉を食べたあとに以下のような症状が起こります。
- 消化器症状:吐き気、嘔吐、腹痛、下痢
- 皮膚症状:発疹、かゆみ、唇の腫れ
- 呼吸器症状:鼻水、くしゃみ、喉のかゆみ
重症の場合は、皮膚が赤くなる、息苦しくなる、激しい嘔吐をするなど、複数の症状が同時に急激に進行するアナフィラキシーとよばれる症状が起こる場合があります。さらに重篤な場合、呼吸困難や血圧低下、意識障害を起こす場合もあります。
症状が出るタイミングは、原因となるアレルゲンによって異なります。多くの場合、肉を摂取してから30分〜2時間後に症状が出現します。
しかし、α-Gal症候群では食べてから3〜6時間後、場合によっては半日程度経ってから症状が出現します。この場合、たとえば夕食に牛肉や豚肉などを摂取すると、就寝後に腹痛、嘔吐、発疹などが現れます。肉の摂取から時間が空くため、肉が原因と気づかれずに見逃されている例も少なくありません。
肉を食べたあとにかゆみや喉の違和感、腹痛などの症状が起こった場合は、病院を受診し医師に相談しましょう。

肉アレルギーの症状が出たら?
ここでは、症状が出たときの対応から診断後の注意点までを解説します。
症状が出たときの対応について
肉を食べて上記のような症状が出た場合、まずは症状の程度を確認しましょう。皮膚の部分的なかゆみやごく軽度の下痢などの軽い症状であれば、まずは食べるのを中止し、様子を見ます。その後症状が落ち着けば急いで病院を受診する必要はありません。しかし症状が落ち着かない場合や、強い腹痛、顔全体が腫れるなどといった症状がある場合は急いで医療機関を受診しましょう。
なお、息苦しくなる、激しい嘔吐をするなどアナフィラキシーが疑われる症状がある場合は、緊急を要する可能性があります。直ちに救急車を呼びましょう。
症状が落ち着いたら、次は原因と考えられる食事内容を丁寧に振り返り、どの肉で症状が出たのかを確認することが大切です。肉でアレルギーが出ている場合でも、全ての種類の肉に反応するとは限りません。牛肉であれば牛肉だけなど、ある特定の肉でのみ症状が現れる場合がほとんどです。
また、肉そのものではなく、ハンバーグなどの加工品に含まれるつなぎの材料(牛乳や鶏卵、小麦粉など)に反応している場合もあります。
アレルギーが疑われる場合、血液検査で特定のアレルゲンに対するIgE抗体量を測定し、そのアレルゲンに対するアレルギー反応があるかどうかを判定します。ただし、IgE抗体が陽性であっても必ず症状が出るとは限らず、抗体の有無だけでアレルギーと断定することはできません。
診断後の食生活で気をつけたいこと
残念ながら、肉アレルギーを根本的に治す方法は現在のところ確立されていません。
そのため、原因となる肉の種類を特定し、それを避けることが最も確実な対処法です。症状が重い場合は、微量の混入でも反応する可能性があるため、加工食品の原材料表示や食物アレルギー表示をよく確認すること、外食時には調理内容を事前に確認するようにしましょう。
なお、肉のアルブミンは加熱により変性を受け、十分加熱した肉ではアレルゲン性が弱まり、食べられるようになる場合もあります。ただしこれについても自己判断は避け、必ず医師と相談の上で進めましょう。

今後の食生活へのアドバイス ~食事の選択肢を増やすために~
肉アレルギーの発症を防ぐには、原因となる肉を食べないことが最も確実な対処法です。しかし肉の種類によっては食物アレルギー表示で確認できない箇所もあるなど、毎日の食生活で大きな負担がかかるのも事実だと思います。そうした中、肉アレルギーの方の肉の代替品として注目されているのが、プラントベースフードです。
プラントベースフードとは、動物性原材料ではなく、植物由来の原材料を使用した食品のことをいいます。植物由来の原材料から肉製品と同様の風味や食感に似せて作られることが特徴です。大 豆、エンドウ、小麦たんぱくなどを原料としたソーセージ、ミートボール、ミンチのような肉加工品の類や、植物性油脂などを使った卵、ミルク、バター、チーズの代替品など、さまざまな加工食品が販売されています。プラントベースフードは、アレルギー、健康課題への対処、宗教的理由のためなど、さまざまな理由で肉を制限する方の選択肢となります。
日本での販売も徐々に拡大し、コンビニやスーパーでの販売も増えてきているなど、ますます一般的になっています。
肉アレルギーの場合のプラントベースフードという選択肢
肉アレルギーがあると、日常生活の中で十分に肉類を摂取することができず、栄養バランス、とくにタンパク質の確保が課題となることがあります。肉類は高タンパク・高栄養の食品であり、主菜の中心となる食材として多くの食卓に登場するため、それを避ける必要がある患者さんにとっては、代替手段の確保が重要です。
そのような中で、プラントベースフードは肉アレルギーの患者さんにとって有効な代替食となり、食事の選択肢が大きく広がります。
具体的にプラントベースフードには以下のようなメリットがあります。
大豆由来のタンパク質を摂取できる
プラントベースフードは大豆などの良質なタンパク質から作られています。大豆は「畑の肉」とも呼ばれ、必須アミノ酸をバランスよく含む優秀なタンパク質です。
加工の工夫によりミンチ肉風、ソーセージ風、ハム風などさまざまな形に再現されており、栄養価に加えて調理のしやすさも魅力です。最近では小麦やえんどう豆を原料とする製品も登場し、より多様なタンパク源が利用できるようになっています。
満足感を得ることができる
肉アレルギーの患者さんにとって、日常的に肉を避けることは、単に栄養の問題だけでなく、心理的な満足感にも影響を与えます。
プラントベースフードは風味や食感も肉に似せて作られているため、肉が食べられない方も肉を食べたような満足感を得ることができるでしょう。肉の食感やジューシーさ、香ばしさを再現する技術も年々進化しています。さらに、焼く・炒める・煮るなどの調理法にも対応しており、従来のレシピにそのまま代替食材として組み込むことができます。
プラントベースフードにも注意が必要
プラントベースフードは、あくまでも植物由来食品を取り入れているという考え方に基づいた製品です。一般的に肉類はそのエキスも含め使用していないとされています。しかし、プラントベースと表記されていても、卵や乳製品などの動物性由来の成分が含まれている場合があります。肉以外にもアレルギーがある場合、内容表示はしっかりと確認することが大切です。
また、プラントベースフードは栄養価が高い一方で、特定の栄養素が不足しやすいということに注意が必要です。たとえば、鉄分やビタミンB12、亜鉛などは動物性食品に多く含まれる栄養素ですが、プラントベースフードだけでは十分な量の摂取が難しい場合もあります。不足しがちな成分は、サプリメントやほかの食材を組み合わせることで補いましょう。
まとめ
肉アレルギーは発症数が少ないとはいえ、発症した方にとっては生活を大きく変えてしまう重大なテーマです。ここでは発症原因から発症時の対策、食生活で気を付けること、そして代替となる食事について解説してきました。アレルギーと向き合いながらも、日々の生活を楽しむことができる食生活を維持していくことが重要だと言えるでしょう。
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記事を投稿した医師
ペンネーム おもち
総合内科専門医、血液内科専門医、日本医師会認定産業医。
複数の病院で多様な疾患の診療経験を積み、現在は地域密着型の病院で内科・血液内科を担当。プライマリケアを重視し、患者一人ひとりに寄り添う診療を行っている。予防医学の重要性を強く感じており、日々の診療においても生活習慣や食事への啓発に努めている。
参考文献
- 食物アレルギー表示に関する情報 | 消費者庁
- 生牛肉の摂取によるアレルギーと診断された一例. 別府大学紀要. 2020 Feb;61:117-121.
- 【肉アレルギー】ネコアレルギーだと豚肉が食べられなくなる?Pork(豚)-Cat(猫)症候群とは? | 水戸済生会総合病院
- Wilson JM. Tick bites, IgE to galactose-alpha-1,3-galactose and urticarial or anaphylactic reactions to mammalian meat: The alpha-gal syndrome. Allergy. 2024 Jun;79(6):1440-1454.
- 猪又直子. Bird-egg 症候群. アレルギー. 2021 Aug;70(8):980-981.
- プラントベース食品関連情報 | 消費者庁
- 令和6年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業 報告書|消費者庁
- 肉アレルギー|食物アレルギー研究会
- 厚生労働科学研究班による食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2022
- アレルゲン検査項目一覧(アレルゲン特異的IgE)|LSIメディエンス
- Meat Allergy|American College of Allergy, Asthma & Immunology